金融政策の失敗が示す日本経済再生の道
今回の円高を巡って、政府与党、日銀の対応の遅さに批判が高まっているが、それはちょっと違うのではないか。政府はともかく、日銀ができることはほとんどない。介入は恐らく効果がない。むしろ下手に介入して外貨準備を増やすのはやめた方がいい。金利下げの余地もない。一時のような量的緩和で円キャリートレードを誘発しようにも、ドル金利が低ければそれも起こりにくい。それでも何かの手を打たなければ、というのは心情的にはわかるが、批判者自身も今起きている大きな変化を見逃している気がする。その大きな変化とは、中央銀行が金融政策で経済をコントロールする時代は終わったということだ。

随分大胆なことを言うと思われるかも知れないが、少なくとも今は金融政策は全く効かない。そして、この変化が構造的なものであるが故に、恐らく金融政策による経済運営の時代は終わりを告げたと言って良いと思う。金融政策はもはや物価のコントロールにすら有効性を失っている。

そもそも金融政策とは何か?それは中央銀行が市中に還流させるお金をコントロールすることにより、物価や成長率を調整しようとするものだ。伝統的な手法で言うと、金利を下げれば貸し出しが増え、市中に回るお金は増え、設備投資や消費が刺激され、物価や成長率が伸びる。金利を上げればその逆だ。従来日銀はこの金利という手綱一本で経済をコントロールして来たが、金利の下げ幅がなくなると量的緩和も実施し、市中のお金を増やすことにより、景気を浮揚させようと試みて来た。

しかし、以下のグラフを見て欲しい。これは私が日銀発表のマネタリーベースとマネーストック(旧マネーサプライ)M2+CDを90年から2010年までプロットしたものだ。マネタリーベースとは言わば日銀が供給するお金のことで、マネーストックとはそれが市中に流れて民間の財布や預金に入ったお金のことだ。2001年頃から2006年にかけて、極端にマネタリーベースが増えたのにも関わらず、マネーストックへの影響はほとんどなかった。これはつまり、日銀がお金を供給しても、そのお金はほとんど市中に流れなかったということだ。どういうことだろう?

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そもそも、金融政策で景気を調整できるという考え方は、あることを条件にしている。それは、潜在需要が供給を上回っており、供給すれば売れる、という状態だ。つまり、金利が需要をある程度抑え、供給を増やすための設備投資のスピードを抑えている場合、金融政策が効果的だ。それは手綱に似ている。引き締めないと走り出す馬が前にいて初めて、手綱捌きでそれが操れる。モノが十分行き渡らず、需要が旺盛な成長期がその状態だ。だが今はどうだろう?十分にモノが行き渡り、生産拠点が海外に移転し、内需が弱い日本でどんな設備投資、資金需要があるのだろう?それは金利やお金の供給量の問題ではない。だからマネーストックは増えなかった。伸びきった手綱が何の役にも立たないのは、馬が弱っているからだ。

実は、金融政策が無力化しているのは何も景気調整に対してだけではない。物価調整に対しても同じことが言える。旺盛な需要に支えられ、適度のインフレの状態の時は、金利は物価の調整弁として効果的だ。仮にデフレになったとしても、それが好不況の循環サイクルの一環としてのデフレであれば、金利を緩めれば物価は上昇に転じる。だが、今のこの状況は、好不況の循環の中のデフレではなく、世界的な構造変化によるものだ。

グローバル化により、モノの生産拠点は賃金の安い国に流れ、常に値下げプレッシャーがかかる。また、半年でCPUスピードが倍になり、さらに値段が半額に下がるような情報通信の世界がこの傾向に拍車をかける。一方で、エネルギー、鉱物などの資源は世界規模の奪い合いから高騰し、それが原材料費を押し上げる。これらの要素が複雑に絡み合って物価を形成し、しかもそれらの要素が金利とは関係ないところで決定される今、日銀の金融政策がどれほどの効果を持つのだろうか?また、世界中で金融資産がダブついて、資金が瞬時に世界を駆け巡る中で、一国の金利政策だけではマネーの量すらコントロールできないのではないか?何故なら、マネーは自由に世界中を行き来でき、そのマネー自体が世界GDPの3倍もあるのだから。その通り道が為替であり、今回の円高もそういった脈絡の中で捉える必要がある。

そう考えると、今日本に必要なのは、そういったマネー、特に今だにお金をお金で増やそうという強欲な資本に蹂躙されずに、うまくその資本を流入させ、内需を拡大させて経済を活性化させる政策だ。例えば、前回も少し書いたような、日本全土を持続可能な社会に作り替え、化石燃料から完全に脱却する第二次列島改造計画のような方針を示し、財政政策または政府発行紙幣のように直接マネーストックを増やす手を打ってドライブをかける。結局金融政策でマネタリーベースを増やしても、日本を素通りして円キャリートレードで海外に流れ、マネーストックが微動だにしなかった失敗を踏まえれば、それしかないことは明らかなのではないか?更に言えば、こうした大胆な政策を打てるのは、自ら資金を手当できる日本のような経常黒字国だけなのだ。そして、その方針が出た途端、世界中から資金が集まって来る。その時にバブルを発生させない法整備(金融政策は効かない)さえきちんとすれば、日本が世界経済を牽引する日は近いと思う。今の円高はその新しい時代を予見する動きなのかもしれない。ただし、その場合さらなる円高は甘んじて受けなければならないので、それを見越した対策は必要になると思う。いずれにしても、この円高とは戦わず、日本の政策としてそれに乗るのが一番得策だ。何故なら私の為替ディーラーとしての経験上、トレンドに逆らって勝った者は一人もいないのだから。
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by martano | 2010-08-26 02:12 | 社長のひとりごと
<< 政府発行紙幣を頭から否定しては... この円高局面でなすべきこと >>


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